恵文社一乗寺店ウェブサイト
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「いちじょうじ人間山脈」
題字:関美穂子
2010年9月8日取材 インタビュー/原稿/写真:堀部篤史
個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました連載「いちじょうじ 人間山脈」。
今回は当店とも長い付き合いの文筆家、甲斐みのりさんにお話を伺いました。乙女、京都、お菓子、旅と、恵文社の商品構成にかかせない定番となっている著作を数多く執筆される甲斐さんの活動の原点は、実は当店にあったのでした。―甲斐さんが京都に住んでたのっていつ頃のことでしたっけ?
実は住んでいたのは1999年から2001年の2年間だけなんだけど、その間に今の活動の原点となるような出会いや出来ごとがいくつもありました。ロル*1として活動して初めて作ったマッチを置いてもらったのも、京都にいた時に持ち込ませてもらった恵文社さんが最初なんです。宇賀田くん*2に担当してもらって、毎月千円そこそこの集金に伺ったりしているうちに、ZEST*3とか他のお店でもちょこちょこ置いてもらえるようになって。マッチのデザインも最初はお友達のデザイナー、コダマくんにお願いして、それからPATとか山本祐布子*4さんにもお願いして、その頃から山本さんとのおつきあいもはじまっているし、私が初めて文章を書いたのも、当時恵文社に勤めてた木村さん*5が発行していた『marie=madeleine』*6だった。恵文社では棚卸しもさせてもらったことあるし(笑)。朝早くから本の値段を電卓で一生懸命計算して、その場でバイト代貰ってそのままお昼食べに行ったり。懐かしいですね。本当は私もちゃんと働いてみたかったんだけど。
―今日は、お客さんを大勢つれて店にきてくれたけど、なにかのイベントだったんですか?
今カルチャースクールの先生の仕事を四校ほどさせてもらってるんだけど、今回のは京都造形芸術大学の街歩きの講座。出町柳からスタートして、進々堂、吉田神社、駒井邸*7とかいろいろまわって最終地点が恵文社さんだったんです。これ、座右の書とも関係してるんだけど、植草甚一の街歩きとかにすごい憧れて影響されてて。
―ふーん、意外ですね。
大学の卒論も植草甚一だったし、世間でイメージされているような森茉莉とかいかにも乙女好きしそうな作家よりも、池波正太郎とかJJ*8みたいな所謂伯父さんたちに影響されてるんです。物書きになってみたいけど、何を書けば本に出来るのか分からなくて悩んでいる時に、散歩と雑学で1冊本が出来るんだって、感動して。それで私もNYとかジャズとか一応チャレンジしてみたけど全然駄目で(笑)。それで自分なりに好きなものを色々考えて辿り着いたのがお菓子とか、クラシックホテルとかだったというわけなんです。だから私の座右の書は『ぼくは散歩と雑学が好き』です。
恵文社一乗寺店オンラインショップ取扱い商品はこちらからどうぞ。
*1 「女性の永遠のあこがれをかたちにする」「叙情あるものつくり」というテーマのもと甲斐みのりさんによって運営される雑貨ブランド。当店でも取扱商品多し。
*2 宇賀田直人 グラフィックデザイナー、当店ウェブサイトのデザインも手がける。
*3 渋谷渋谷に本店があったレコードショップ。90年代に渋谷系なる音楽シーンをリードし、三条高倉に京都店がオープンするも2005年には惜しまれつつも閉店。
*4 イラストレーター。学生時代を京都で過ごし、その時代に甲斐さんとも出会う。ロルからは山本さんデザインのグッズも数多く発売しています。
*5 文筆家の木村衣有子さん。彼女は一時期当店でアルバイトをしていたことがある。
*6 木村さんが発行する、珈琲とフランスかぶれのための小冊子。
*7 北白川にあるヴォーリズ設計の邸宅。入館料500円で見学が出来る。『駒井家住宅(駒井卓・静江記念館)は、遺伝学者であった駒井卓博士の住居であり、昭和初期の洋風住宅として 質が高く、また建築当初の状態がよく保存されています。米国人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズが円熟期にさしかかった時代の住宅建築で、昭和初期に おける代表的な作品ともいえます。』(財団法人日本ナショナルトラストウェブサイトより引用)
*8 植草甚一のニックネーム。