第二十三回
本出ますみさん(羊の原毛家・クラッサー)

2011年3月23日取材 インタビュー/原稿/撮影:椹木知佳子

本出ますみさん

個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました連載「一乗寺人間山脈」。

羊の原毛屋、出版社でもある「SPIN HOUSE PONTA」代表、本出ますみさん(通称ポンタさん)。生家である昔ながらの京町家は、実際に原毛やウール製品、石鹸などが購入できる店舗であり、出版事務所でもあります。世界各国の雑貨や工芸品、資料が山積みになった無国籍な空間からは、何かが培養されて育っている感じ。そんな力溢れる仕事場にてお話をうかがいました。

―もともとはSPINUTS(スピナッツ)*1をご紹介いただいたことでお知り合いになりましたが、何やら色々されているじゃないですか。出版、原毛販売のほかにウール製品や羊モチーフの雑貨製造、展覧会の企画*2、なぜかアパート経営。それが面白そうなのでいつも注目しているのですが…

一体何なんだということですよね?(笑)もともとはオーストラリアにバックパッカーで旅した時、お世話になったお家の方が手紡ぎされていて感動したことがきっかけで、羊毛にハマってしまって。オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの羊毛、フリースを輸入して販売したのが始まり。それをもっと売るために情報提供しなければということで出版を始めたら、凄く面白くてウエイトをかけるようになりました。でもそれだけではと思って、縁あって家の前の中古アパートの話があり、今は女子専用アパートの大家もやってます。多目的室といってパオ*3を建てたり、シェアハウスもしたりして楽しいんですよ。

本出ますみさん

―なるほど。そもそもは羊毛なんですよね。私は手紡ぎをしないので、詳しいことは実はよく分からないのですが、紡ぎや織り手さんはポンタさんのお店で買っている人が多くて、よくお名前を耳にします。

日本では紡ぎ手が多いと思います。この20〜30年、バブルも含めて日本は自分のためにお金と時間をかけることが出来る趣味の紡ぎ手が多かったですから。昔に比べて少なくはなってきているかもしれませんが、こんなに技術が受け継がれている国も珍しいと思います。悪い男にハマったようなもので、何も分からないまま羊毛を輸入販売しはじめて、数年よく分からない事が多くて。例えばダメージのある毛が入ってきたり、配送途中に毛が蒸発して軽くなるとか、何も知らなかったんです。それで1991年にニュージーランドにClasser(クラッサー)の資格を取るために留学しました。クラッサーは羊毛の格付けをして、同じような品種に分類します。仕分け作業のようなものですね。これは学んだことをまとめたファイルです。

本出ますみさん

―可愛い。凄いですね、この手描き原稿とフォント。当時からテイストが全然変わってませんね。

そうですね(笑)。泥とか糞がついたままのものやダメージのあるものが、ちゃんと仕分けされていない為に処理に困って捨てられてしまうことも多いんです。地球の資源を無駄なく使い、必要とされるものを考え、作り出す。それによって世の中のすべての人々の衣食住が満たされると良いなと思います。デザイナーって色とかデザインだけではなくて、資源と消費の間をつなぐ役割もあると思います。どんな仕事をしていても、線上には「道筋をつけてコーディネートする」という一貫したクラッサーの考え方があるんです。

―なるほど。色んなお仕事をされていますが、いつも編集者目線だなというのは感じますね。人と物を繋いで伝える役割を与えられているというか。

いい草、いい環境を求めて自由に動く遊牧民みたいなもんです。東日本大震災があって、自分にできることって何なんだろうと考えました。最近、日本って盆栽みたいだなと思っていて。小さい器の中で枝を曲げながら、切り揃えられながら何百年も美しく生きているなと。大輪の花を咲かせて来年は根を腐らせるより、地味でも耐え忍ぶ東北の農家の強さみたいなものを大事にしたいと思うんですよ。やっぱり地産地消でなければとも思う。この国の文化を海外に発信して、今の作家さんの道が続いていくように紹介をしていきたいと思っています。

本出ますみさん

―ポンタさんならやってくれると思ってしまいますね。元気が出ます。

お互い元気に仕事していきましょうね。

―最後に座右の書を一冊ご紹介下さい。

一冊というのが難しくて。死生観は『デビルマン』(永井豪)なんですが、編集者としての一冊ということで『The Maker’s Hand』(Peter Collingwood)。こんな風に正面からモノを見つめたいと思います。

SPIN HOUSE PONTA :http://www.spinhouse-ponta.com/

*1 スピン(紡ぎ)+ナッツ(夢中になる)の意味。手紡ぎだけではなくテキスタイルの仕事全般をテーマにした冊子。その他「はじめての手紡ぎ」「羊料理の本」などの単行本も出版している。

*2 「ヒツジパレット 2012」と題した公募展を企画中。現在参加者を募集しています。くわしくはこちら

*3 モンゴル遊牧民のテント。室内にパオを建ててパーティーをしたりしている。