恵文社一乗寺店ウェブサイト
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「いちじょうじ人間山脈」
題字:関美穂子
2011年12月23日取材 インタビュー、原稿:椹木知佳子/写真:ウエスギヒロコ
個性豊かな作家さん、アーティスト、取引先の皆さんと毎日のように関わりながら成り立っている当店。そんな人々を探れば自ずと店の輪郭までもが浮かび上がるのではないかということで、スタートしました連載「一乗寺人間山脈」。
今回は東京・西荻にある「サウスアベニュー」(以下、サウス)というちょっと変わった名前の中国茶屋さん。新旧の雑貨もあるし、古着もあるし、お茶道具や食べ物も少し。ところ狭しと並べられた雑貨は出処不明のおかしな者も数多く、本当は何屋さんなんだろう?と楽しいムードにふわっと包まれる大好きなお店です。来年から店長になられる予定のスタッフ・安那美香さんにお話を伺いました。
―まず、店主のエツコさんとスタッフの安那さんって、同じ家に住んでいてお声もよく似ていますけど、ご家族じゃないんですよね。どういうご縁なんですか?
よく聞かれますが赤の他人です。家族よりご飯を食べてる回数は多いと思いますけど。12、3年前、お互い中国旅行中で出会い、その時にとても良くしていただいたのがご縁です。それまでパン屋で働いていたのですが、数年後に本格的に勤めることになりました。
―包装は余った紙とか写真、切り絵で作った手作りの包装が毎回違うので凄く楽しみです。いつ仕込んでいるのですか?レベルが高すぎて、才能の違いを感じます。
店が暇な時もするし、家でテレビ見ながら仕込んだりとか。何もしない時は無いってぐらい、コマネズミのように。その割に全然儲からない。どこが良いと思うんですか?
―このラッピングはリサイクルですよね。リサイクルってやりたい事は分かるんだけど、何か手作りっぽさとか、いかにもリサイクルな感じのものが貧乏臭くて嫌いなんです。でもサウスのはギリギリに絶妙なラインで可愛くて、ヘンなんですよね。
これは!!というものが出来上がった時は「あんたは天才!」「国宝級ですね」とお互いに絶賛し合います。たまに私が惰性で作ったものはすぐに見破られて捨てられます。「なんだこれ」って。リサイクルとは考えていなくて、あくまで全ては平等に素材として見ています。世界中のゴミ箱はチェックをかかせません。ゴミを見る目は熱いです。
―妥協しないですよね、最近ますます神憑ってますしね。中国茶専門店だと思っていたのですが、実はお茶の販売スペースって凄く小さいですよね。他は古着から雑貨もお茶道具も販売されていて、不思議な感じに仕上がっているのですが。
もともとはアメリカの50'Sの服、雑貨と日本の骨董を扱っていましたが、同じようなお店も増えてきたので、徐々にお店も変えようと。女性のお客様が多かったので、ジャスミン茶専門店って夢があっていいなと思ったようですね。そして何よりも、こんなに美味しいジャスミン茶があるんだあと感動した事もキッカケです。
―選ばれている茶葉には定評がありますね。やっぱり美味しいものを求めるとオーガニックの茶葉を探すことになりますか?
そうですね。もともと自分たちも食材には敏感な方です。特にお茶はお湯をさしてそのまま抽出しますから怖いじゃないですか。1年に1度、新茶が出る8月に中国で1年分の茶葉を買い付けに行くのですが、新しい農家は「農薬を使ってない」と言われても、畑まで様子を見に行くんです。
―当店でも人気の「風邪に負けない茶」*1とかブレンド茶は自分たちでブレンドを考えてるんですか?
試行錯誤して作っています。中に入れる素材も作れるものはなるべく自分達で作るんです。毎年陳皮の味も違うので、レシピは毎年チェックして少しずつ変えています。中国茶はこむずかしいイメージを持たれている方が多かったのでブレンドティーならもっと気軽に飲んでもらえるんじゃないかなと思って。
―まずは少量からお試しできるのが嬉しいですね。パッケージも面白いし、お土産にも喜ばれますよね。選ばれているもののセンスが良いとか、美味しいとか、そういう事だけではなくて、何というかお店の作り方が絶妙でどんな気持ちでお店を切り盛りされているのかが、いつも気になるんですよ。
お客さんに楽しく、気持ち良く買物してもらうに尽きます。
座右の書『調理場という戦場』(斎須政男 / 朝日出版社 / 2002年)
―では最後に座右の書を教えてください。
レストランで働いたりパンを作ったりしていた時から読んでいたもので、今読んでも背筋が伸びます。上司に叱られた時にも読み返し、明日からまた頑張ろうと思えた本。レストラン時代に友人に貸したら、返ってこないままその子が留学してしまいました。サウスで働くことになってから、また読みたいと思ってブックオフにある在庫をパラパラとめくっていたら、私がつけた折れ線やローザ洋菓子店の包み紙が入っていました。「あ、これ私のだ(笑)」と買って帰り、またしげしげと読み。
―面白いですね。安那さんはやっぱり食べるのも、作るのも好きなんですね。
好きですね。作るのはドキドキします。そのドキドキが味わえる本です。
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